「田舎者は農業でもしてろ!」という人がいたら、ホームセンターで売っている野菜の種の価格を見てほしい。
種を地面に撒いておけば生えてくるわけでもなく、肥料やら手入れやらいろいろコストがかかる。それをトータルすると、スーパーで買った方がよっぽど大きくて美味しい野菜が手に入る。
山菜は美味しいが腹の足しにならないし、川には外来種の魚しか泳いでいない。
それなりの土地と農機具、燃料、肥料などの投資をしたうえで、おそらくJAなどから苗や種などを購入しなければ、農業を行うことは難しい。しかもそれなりのノウハウと体力が必要になる。
割に合わないからだろう、家の周りは休耕田や荒れた畑ばかり。田んぼをつぶして住宅地にしているところもあるが、更なるド田舎からやってくる流入者くらいしか住む人などいないだろう。もっとも、子育て世帯にはのびのびと育てられていいかもしれない。だが少子化も進んでいて、市の統計情報でも、流入者の数は減る一方だ。子どもは育てば市外に出て行き、帰ってくることは少ない。かくいう僕の弟も、県外で暮らしている。その方が仕事もあるし給料も生活水準も高いからだ。
ではなぜ僕は田舎に住んでいるか。精神的な病気があるからだ。環境を変えられない、静かな環境でなければストレスがたまる、十分な生活費が得られるほど働けないので、経済的に親に依存せざるを得ないなどが理由だ。
体と心さえ元気なら、さっさとこんなところ飛び出して、都会に行っているだろう。少なくとも、食べていくだけの仕事は容易に見つかるだろうから。
田舎はちょっとしたアルバイトもできない。人が少ないからパート・アルバイトも長期雇用が前提なのだ。ブランクがあると容易に挑戦できない。
そしていうほど人も優しくない。よそ者に対しては警戒感が強い。スーツを着て歩いている人がいるだけで、警戒の視線が向けられる。地縁のめんどくささには……触れてはならない。